昭和歌謡史における黄金コンビ、作詞家の佐伯孝夫と作曲家の吉田正。二人が手がけた『恋をするなら』の制作現場には、前例のない挑戦と緻密な計算が存在していました。
都会派ムード歌謡のパイオニアであった吉田正は、海外の最新音楽トレンドに対して極めて敏感なアンテナを持っていました。自著や当時の関係者証言によると、吉田はエレキサウンドの持つダイナミズムを「日本人の哀愁や情緒を壊さずにどう歌謡曲へ融合させるか」に心血を注ぎました。単に洋楽を模倣するのではなく、日本のメロディの良さを活かしつつ、若者が自然と身体を揺らせるアレンジを構築したのです。
一方、佐伯孝夫による『恋をするなら』の歌詞は、言葉遊びとリズムの融合が際立っています。「A・I・U・E・O」という母音の響きをそのままフックに使い、カラフルでストレートな恋の喜びを軽快な日本語で描き出しました。従来の湿り気のある演歌調とは一線を画す、カラッと晴れわたるような西海岸の風を感じさせる詞世界は、当時のティーンエイジャーにとって新鮮そのものでした。