多くの人を戦慄させる粉瘤の臭いの理由と正体は、単なる汗や体臭の類ではありません。医学的にアテロームと呼ばれるこの腫瘍は、本来であれば新陳代謝によって垢(角質)として剥がれ落ちるはずの皮膚組織が、何らかの理由で皮下に落ち込み、内側に角質と皮脂を溜め込む「嚢腫(のうしゅ)」という袋を形成することで生じます。
この閉鎖された袋の中は、体温によって常に36度前後に保たれ、酸素が極めて届きにくい密閉環境です。ここに皮膚の常在菌であるプロピオニバクテリウム(アクネ菌)をはじめとする嫌気性細菌が入り込むと、蓄積された脂質やタンパク質を急速に分解・発酵させます。この過程で生じる低級脂肪酸(イソ吉草酸や酪酸)や硫黄化合物こそが、粉瘤から放たれるチーズやヘドロのような臭いの正体です。
普段、粉瘤の表面には「へそ」と呼ばれる微小な開口部が存在するものの、内容物が完全に外へ漏れ出さない限り、激しい異臭を感じることは稀です。しかし、腫瘍が肥大化して内部の圧力が限界に達したり、下着の摩擦や指先の圧迫が加わったりした瞬間、濃縮された腐敗物が開口部から漏出、あるいは皮膚内部で破裂します。これが、ある日突然耐え難い悪臭に襲われる物理的なメカニズムです。