ネット上の批判を見ていると、「なぜこれほど問題の多い人物が4期15年もの間、知事に当選し続けたのか?」という疑問に突き当たります。その背景には、静岡県特有の地域事情と「リニア問題」を巡る民意の構造がありました。
県民の生活を守る「水問題」という強力な大義名分
川勝氏が強硬にリニア中央新幹線の南アルプストンネル工事着工を拒み続けた最大の理由は、大井川の減水問題です。大井川は県中流域・下流域に暮らす約62万人の生活用水、農業用水、工業用水を一手に担う命綱です。トンネル掘削によって湧水が県外(山梨県側)へ流出し、水源が枯渇するのではないかという懸念は、地域住民にとって切実な生存権の問題でした。
静岡県民にとって、東京や名古屋の利便性のために自らの水資源が脅かされることへの警戒感は極めて強く、JR東海の初期対応の不味さも手伝って、「巨大資本に一歩も引かず対峙する川勝知事」は長らく郷土を守る防波堤として熱狂的に支持されたのです。県知事選挙では、スズキの鈴木修氏をはじめとする地元経済界の重鎮や、連合静岡(労働組合組織)の手厚い後押しを受け、自民党が擁立する候補をことごとく撃破してきました。
辞任理由の不可解さ|「リニアの延期が決まったから辞める」という居直り
しかし、晩年はその大義名分が完全に変質していきました。国交省の有識者会議が環境保全策を取りまとめ、JR東海が田代ダム案(取水抑制による還元)などの代替案を提示しても、川勝氏は次々と新たな条件を突きつけて協議を引き延ばし、対立そのものを政治利用していると受け取られるようになりました。
そして迎えた2026年4月、職業差別発言の翌日に行った電撃的な辞意表明の場で、世間をさらに唖然とさせる発言が飛び出します。「自身の不適切発言が原因か」と問われた知事は、それを否定するかのようにこう語ったのです。
「JR東海が2027年の開業を断念したことで、私の仕事に大きな区切りがついた。リニア問題が大きな契機となった」
差別発言への反省ではなく、国策プロジェクトを遅延させたことを「自らの功績」であるかのように誇り、それを辞任の口実にした態度に、日本中が強い不快感と憤りを覚えました。「リニアを止めるためなら何を言っても許されるのか」「辞任の理由まで支離滅裂だ」という激しい反発を招き、当初「6月のボーナスをもらってから辞める」としていた意向も批判の嵐によって撤回を余儀なくされ、5月9日付での前倒し辞任へと追い込まれたのです。