彼の名前「ダッシェル・ロバート・パー(Dashiell Robert Parr)」には、洗練された言葉遊びと家族の文脈が巧みに編み込まれています。まずダッシュの本名の由来ですが、英語の一般名詞である「dash(激しく突進する、勢いよく飛び出す)」が第一のモチーフであることは疑いようがありません。同時に、ハードボイルド小説の巨匠ダシール・ハメット(Dashiell Hammett)にも通じるクラシックなアメリカの名を冠し、1960年代のレトロフューチャーな世界観に深みを与えています。そしてミドルネームの「ロバート」は、尊敬する父ボブ(ロバート・パー)のフルネームをそのまま受け継いだものであり、父と息子の固い結びつきを雄弁に物語っています。
このMr.インクレディブルのキャラクター設定において極めて秀逸なのは、ダッシュが抱える「ギフテッド(突出した異能を持つ子ども)ゆえの苦悩」です。政府のスーパーヒーロー保護プログラム下で、パー家は普通の一般市民として息を潜めて暮らすことを義務付けられていました。学校の陸上部に入って思い切り走りたいと願うダッシュに対し、母ヘレンは「能力が世間に露見して平穏な生活が壊れる」ことを恐れ、スポーツへの参加を厳しく禁じます。
食卓で母が口にする「みんな特別な存在なのよ」という気休めの言葉に対し、ダッシュはこう吐き捨てます。
「それって、誰も特別じゃないってことじゃん」
この台詞は、単なる子どもの屁理屈ではありません。「個性の尊重」を美名に掲げながら、突出した異能や卓越した才能を持つ者を画一的な枠に押し込め、平均化しようとする現代社会への強烈なアイロニーとして機能しています。自らの才能を社会の都合で否定され、檻の中に閉じ込められているフラストレーション――それこそが、物語前半におけるダッシュの根源的な行動原理だったのです。