木彫り熊の鑑定において、専門家が最も重要視するのは「技法(彫り口)」「サイン(銘)」「材木と経年変化」の3点です。
まず技法について、昭和の観光土産の多くは毛並みを細かく線状に彫り込んだ「毛彫り」であり、型押しや機械による均一な刃跡が目立ちます。一方、八雲の名工作品は、平ノミや丸ノミで大胆に削り出した「面彫り」が主流です。ノミ跡の一つひとつに作家の迷いのない手癖と立体感覚が刻まれており、光を当てた時の陰影の出方がまったく異なります。
次にサインです。作品の腹部や足の裏、あるいは付属の木製台座に刻印された墨書きや彫り銘を確認します。柴崎重行であれば「志」、引間二郎であれば「木歩」といった特有の銘が彫られています。ただし、後述する通り偽物も存在するため、銘の筆跡や彫りの深さの整合性が厳しく問われます。
オークション現場に立ち会うベテラン鑑定士は、近年の現場状況をこう証言します。
「かつては遺品整理のゴミ袋に入れられていた木彫り熊が、柴崎作品と判明して150万円で落札されたケースもあります。しかし一方で、ネットフリマ等で『八雲風』の量産品に偽の銘を彫り足した悪質な出品も急増しています。素人判断でヤスリをかけたりニスを塗り直したりすると、美術的価値が一瞬でゼロになるため絶対に避けてほしい」