料亭の焼き魚が冷めても柔らかいのは、加熱前の段階で細胞膜の水分保持力を高めているからです。スーパーで購入したパックの切り身には、時間が経つにつれて表面に細胞液と臭み成分を含んだ「ドリップ」が滲み出ています。これを放置してそのまま焼くことは、仕上がりの食感と風味を自ら損ねているようなものです。
まず実践すべきは、ぶりの照り焼きふっくら下処理の基本となる「振り塩」です。切り身の両面に魚の重量に対して約1%(切り身1切れ100gに対し約1g)の塩を均一に振り、常温で12分〜15分間静置します。この時間設定が極めて重要で、短すぎると脱水が不十分になり、20分を超えると身の必要な水分まで抜け落ちてパサつきの原因になります。時間が経つと表面に大量の水分が浮き出てきますが、この水分こそが生臭さの元凶であるトリメチルアミンを含んだドリップです。
特に天然ぶりなどで血合いが多く生臭さが気になる個体の場合は、ぶりの臭み取り塩振り湯通し(いわゆる霜降り)が劇的な威力を発揮します。塩を振って浮き出た水分を拭き取った後、約80℃〜85℃の熱湯をサッとかけ、すぐに氷水や冷水に落として表面のアクやぬめりを洗い流す手法です。ただし、家庭のフライパン調理においては、塩振りの後に厚手のキッチンペーパーで表面の水分を指先で圧をかけるように完全に吸い取るだけでも、臭みは9割以上カットされ、身のふっくら感を極限まで保持することが可能です。