中川安奈の際立った気品と芸術的感性は、彼女の生まれ育った類まれなる環境にも深く根ざしています。家族や家系を紐解くと、母方の祖父は文化勲章受章者であり日本洋画壇の巨匠として知られる中川一政画伯です。父は元通商産業省の官僚で後にトヨタ自動車副会長を務めた中川勝弘氏、母はエッセイストの中川桃子氏という、知性と芸術が高度に交差する名門の家柄で育ちました。
幼少期から本物の芸術、文学、絵画に囲まれて育った経験は、彼女の演技における「佇まいの美しさ」や「言葉への感性」として結実していきます。決して自らの出自を誇示することはありませんでしたが、所作の一つひとつに宿る品格は、現場の映画監督や共演者たちからも深く敬重されていました。
私生活においては、1992年に日本を代表する舞台演出家である栗山民也氏と結婚しました。栗山氏といえば、読売演劇大賞をはじめとする数多の演劇賞を受賞し、後に新国立劇場演劇部門の芸術監督を務めた日本の舞台演出の最高峰です。二人は私生活のパートナーであると同時に、互いの芸術性を厳しく高め合う同志でもありました。結婚後の中川安奈は、映像分野から徐々に舞台演劇へと軸足を移し、栗山演出の作品などで鬼気迫る名演を次々と繰り出していくことになります。