「花天狂骨枯松心中」の底流には、日本の伝統芸能である歌舞伎や人形浄瑠璃、とりわけ近松門左衛門が描いた「心中物(『曽根崎心中』や『心中天の網島』など)」の世界観が色濃く反映されています。
日本の古典心中劇は、現世では結ばれない男女が、来世での逢瀬を信じて共に命を絶つ道行きを描きます。技名に含まれる「枯松」は、能楽の舞台背景に描かれる「松」や、男女の情念が枯れ果ててなお残る情死の舞台装置を想起させます。
始解「花天狂骨」が見せる「影鬼」や「色鬼」といった童の遊びが無邪気ゆえの残酷さを持つとすれば、卍解は「酸いも甘いも噛み分けた大人が最後に辿り着く救いのない心中」です。華やかな羽織をまとい、誰よりも情に厚い京楽春水が、最も残酷で情念に満ちた能力を行使するという皮肉なコントラストが、作品屈指の芸術的な深みを生み出しています。