「信号機のない交差点では、無条件に左から来る車が優先される」――この言説は、現場の交通実態において最も危険な誤解のひとつです。警察庁の交通指導課関係者や事故調査を行うアジャスター取材を進めると、事故当事者の多くが「自分は左側から入ったのだから、相手が止まるべきだった」と主張し、現場検証で呆然とする場面が日常的に繰り返されています。
道路交通法第36条が定める優先関係は、厳格な階層構造(ヒエラルキー)を持っています。左方優先の規定が有効になるのは、道路標識による指定がなく、道路の幅員差も存在せず、さらに互いの進行方向条件が一致しているケースに限られます。つまり、道路状況に何らかの「差」が存在する瞬間、左方優先の効力は完全に消滅します。
とりわけ生活道路や住宅街の交差点では、一見すると同じような幅に見える道路であっても、数段階の優先判定が瞬時に適用されます。この優先順位のピラミッドを理解せずに「左側だから大丈夫」と交差点に進入することは、自ら事故の罠に飛び込む行為に等しいといえます。