胡蝶蘭は言葉を発しないが、その健康状態は「根の色」と「葉の張り」に極めてダイナミックに現れる。トラブルが発生した際、初心者が陥りがちなのが「葉にしわが寄っているから、水不足だと勘違いしてさらに水を注ぎ足し、完全にトドメを刺す」という悲劇だ。
葉の水分が失われて縦にしわが入り、手触りがゴムのようにフニャフニャと柔らかくなる現象は、二つの相反する原因によって発生する。第一は、単なる「純粋な水切れ」。第二は、「根腐れによって根が全滅し、土壌に水があるのに水を吸い上げられない状態」である。この二者を瞬時に見極める決定的なサインが、根の色彩と感触だ。
胡蝶蘭の根を観察し、白っぽく銀灰色に乾燥しているなら、それは「水を求めている健康なサイン」である。この状態であれば、鉢底から流れ出るまでたっぷりと水を与えれば、2〜3日で葉のしわはピンと張りを取り戻す。一方、根が黒褐色に変色し、触るとスカスカになって表皮が剥がれたり、悪臭を放ってブヨブヨと潰れたりしている場合は、明白な根腐れSOSである。
もし根腐れを起こしていた場合の緊急レスキュー手順は以下の通りだ。 まず、鉢から株を抜き取り、植え込み材をピンセット等で優しくすべて取り除く。消毒した園芸用ハサミで、黒く腐敗した根や中身のない糸状の芯を根元から完全に切除する。健全な緑や白の根がわずか1〜2本でも残っていれば、再生の可能性は十分にある。切り口に殺菌剤(トップジンMペースト等)を塗布し、半日ほど日陰で乾かした後、新しい素焼き鉢に新品の水苔で硬めに植え直すか、清潔な透明カップにバークを用いて植え替える。その後は直射日光を避け、2週間ほど根元への灌水を一切絶ち、1日数回の葉水だけで湿度を維持しながら新根の発根を待つのが、最も生存率の高い復活プロトコルである。