採卵後に安静が求められる背景には、女性の体に不可逆なダメージを与えかねない明確な医学的リスクが存在します。
① 骨盤内感染症のリスク
採卵は、腟壁から細い針を卵巣へと刺して卵子を吸引する外科的処置です。腟壁や卵巣には針による微細な創傷(傷口)が残っています。傷口が塞がる前に性交渉を行うと、腟内の常在菌や外部の細菌が骨盤腔内へと侵入し、骨盤腹膜炎などの重篤な感染症を引き起こす恐れがあります。
② 卵巣茎捻転(けいねんてん)のリスク
複数の卵胞が育った卵巣は、重く腫れ上がった状態です。この状態で性行為による物理的な衝撃や体位変換が加わると、卵巣を支える靭帯がねじれる「卵巣茎捻転」を誘発することがあります。激痛を伴い、血流が途絶えて卵巣が壊死する危険があるため、発症した場合は緊急開腹・腹腔鏡手術が必要となります。
③ 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の悪化
採卵で針を刺した刺激やホルモンバランスの急激な変化により、腹水や胸水がたまるOHSSを発症することがあります。腹圧がかかる性行為は、腫大した卵巣の破裂や腹腔内出血を誘発する要因になり得ます。