現場で自己覚知が機能している状態と、不足している状態の違いを具体的なシチュエーションで比較してみましょう。
【事例1:介護現場での食事介助拒否】
利用者が食事の摂取を頑なに拒否した際、自己覚知が不足している介護職は「せっかく作ったのに失礼だ」「栄養を摂らせなければ自分の責任になる」と焦りや苛立ちを感じ、無理に口へ運ぼうとしてしまいます。
一方、自己覚知ができている職員は、「自分は『残さず食べるのが美徳』という家庭環境で育ったからイライラしているのだ」と自覚します。その上で、「今日はお腹が空いていないのかもしれない」「口内炎があるのではないか」と利用者の視点に立ったアプローチへ切り替えます。
【事例2:看護現場でのナースコール多発】
頻繁にナースコールを鳴らす患者に対し、看護師が「業務を妨害されている」とストレスを感じる場面です。自己覚知が高い看護師は、「自分は時間に追われると不安が怒りに変わりやすい」という心理傾向を把握しています。深呼吸を挟んで感情をリセットし、「コールが頻回なのは、患者さんの病状への強い不安の表れだ」と捉え直して傾聴に向かうことができます。
【事例3:ケアマネジャーによるプラン作成】
利用者が「一人暮らしを続けたい」と望んでいるのに対し、家族が「施設に入居させたい」と主張するケースです。ケアマネジャー自身が「高齢の親は家族と同居か施設に入るべき」という固定観念を持っていると、無意識に家族側の意見へ誘導してしまいがちです。自己覚知を持つケアマネジャーは、自身の先入観を排除し、本人の自己決定権を最優先にした中立な調整を行います。