SNSやネット掲示板上では、「耳の裏のしこりを針で刺して中身を絞り出した」「放っておいたら小さくなった」といった体験談が散見されます。しかし、形成外科や皮膚科の現場医師からは、こうした行為に対する強い警鐘が鳴らされ続けています。
日本皮膚科学会の臨床報告でも指摘されている通り、耳の裏の出来物を潰す危険性は極めて甚大です。粉瘤の場合、強い外圧をかけると皮膚の外側ではなく、皮膚の内部に向かって嚢腫壁が破裂することがあります。老廃物が皮下組織へ一気に漏出すると激しい異物反応が惹起され、周囲組織を巻き込んだ広範な蜂窩織炎(ほうかしきえん)へと移行します。内部で破裂した粉瘤は組織との癒着が激しくなり、将来的に切除手術を行う際も切開創が大きくなり、瘢痕(傷跡)が目立ちやすくなるというデメリットしか生みません。
また、耳の裏の出来物から出る膿と特有の臭いをニキビと誤認し、市販の抗炎症軟膏のみで対処しようとする行為にも落とし穴があります。毛嚢炎や軽度のアクネ菌感染であれば、適切な洗浄と外用抗菌薬を用いた正しい毛嚢炎・ニキビの治し方によって数日から1週間程度で沈静化します。しかし、粉瘤の袋構造そのものは塗り薬では消滅しません。一時的に炎症が引いて「治った」ように見えても、袋が残存している限り数ヶ月から数年スパンで老廃物が再蓄積し、再発を繰り返します。耳の裏の出来物を自然治癒に任せて放置するリスクは、病変の巨大化に伴う手術難度の跳ね上がりと、感染爆発時の緊急切開排膿という肉体的負担に直結しています。