タイパ(タイムパフォーマンス)至上主義へのアンチテーゼ。これが現在のムーブメントを紐解く最大のカギだ。2020年代半ばを過ぎ、AIによる自動楽曲生成やアルゴリズムによる自動プレイリストが日常に溢れかえる中で、リスナーは「音楽を効率的に消費すること」に軽度の疲弊感を抱き始めた。
レコードを聴くには準備がいる。ジャケットから盤を慎重に取り出し、ホコリを払い、ターンテーブルにセットして針を静かに降ろす。約20分経てば、わざわざ立ち上がって裏返さなければならない。スキップボタンはない。だが、この「手動の手間」が、散漫になりがちな注意力を一気に音楽へと引き戻す。作業BGMとして聞き流されるデジタルデータとは異なり、レコードは聴き手に「一対一で音楽に向き合う時間」を強制する。その濃密なリスニング体験が、若い層に新鮮な驚きをもって受け入れられている。