『おかあさんといっしょ』の歴史上、歴代最長の放送期間(10年半)を誇り、社会現象となった『にこにこぷん』。その中で知性派ポジションを担っていたのが、ネズミのキャラクター「ぽろり」ことぽろり・カジリアッチIII世です。声優・中尾隆聖氏による唯一無二の気品とコミカルさを兼ね備えた声の演技は、当時の子どもたちの耳に深く刻まれました。
一見すると愛らしい洋服姿のネズミですが、NHKの公式設定資料や脚本を手掛けた井出隆夫氏の構想における彼の生い立ちは、子ども番組の枠を超えた重厚なドラマを内包しています。
カジリアッチ家はかつてカリブ海を震撼させた大海賊の家系であり、ぽろりの父親も勇敢な船長でした。しかしぽろり自身は争いを好まず、バイオリンを愛し、すぐにお化けを怖がって涙をこぼす繊細な気質の持ち主です。「祖先のようになれない」という葛藤を抱えながらも、仲間との生活の中で自らの知恵を活かし成長していく姿は、放送作家陣による極めて高度なビルドゥングスロマーン(自己形成の物語)であったといえます。