1970年代以降、テレビ番組やオカルト本で広まった「古代宇宙飛行士説」は、ナスカの地上絵の知名度を一気に押し上げました。その象徴として今も語られるのが、丘の斜面に描かれた「宇宙飛行士(El Astronauta)」と呼ばれる地上絵です。大きな丸い頭にゴーグルのような目、片手を挙げた姿が宇宙服を着た異星人のように見えることから名付けられました。
しかし、近年のアンデス考古学の知見では、この図像の解釈は完全に覆されています。この絵はナスカ文化よりも古いパラカス文化末期に描かれたものであり、宇宙人ではなく「フクロウの頭部を持つシャーマン(呪術師)」あるいは神格化された人間を描いたものと結論づけられています。パラカス・ナスカの織物や土器には、儀式用の仮面や羽飾りを身につけた呪術師の姿が頻繁に描かれており、地上絵のモチーフとも完全に一致します。
また、「地上絵は空から見なければ形がわからない」という前提自体が誤解です。パラカス期からナスカ初期の地上絵の多くは、平原ではなく周囲の丘陵地や高台から肉眼で見下ろせる斜面に描かれていました。人々は上空を飛ぶ存在を意識していたのではなく、地上を歩く巡礼者や谷を行き交う旅人に向けて視覚的なメッセージを発信していたのです。