恐怖を煽る文脈の起源を辿ると、大正時代から昭和にかけて流行した不幸の手紙が元ネタとなっています。1970年代の第一次オカルトブーム期に社会問題化した不幸の手紙は、「この手紙と同じものを〇日以内に書かないと死ぬ」という脅しを郵便網で拡散させるものでした。当時は便箋と切手代という物理的コストや筆跡という身元特定リスクがあったため、拡散スピードには自ずと物理的な限界が存在していました。
この構図を破壊したのが、1990年代末から2000年代初頭にかけて急速に普及した携帯電話、いわゆる「ガラケー」の登場です。通信キャリアによる定額制パケットプランの普及やショートメッセージ(SMS)、Eメール機能の標準装備によって、物理的コストはゼロになり、ワンクリックで複数人に送れる「同報配信」機能が悪用されることになりました。
この時期に生まれたのが、都市伝説と合体した「呪いのメール」です。福島県の精神病院から脱走した患者が凶行に及ぶという完全なデマである「白の部屋」、3日以内に転送しないと足を切断されるという「かしまさん」、さらには「ベッドの下の男」「メリーさん」「杉沢村」といった昭和の怪談が、即座にデジタルテキストへ移植されました。恐怖の物語を読んだ受信者が「もし本当だったら」という自己防衛本能から送信ボタンを押すことで、トラフィックは指数関数的に膨れ上がっていったのです。