華やかな芸能人の変身劇がSNSで拡散される一方で、ネット上には「マウスピース矯正で歯並びが悪化した」「高いお金を払ったのに効果がなかった」といった否定的な口コミや失敗談も散見されます。このギャップはなぜ生じるのでしょうか。
日本矯正歯科学会の専門医らが指摘する最大のトラブル要因は、「患者の自己管理不足による装着時間のショート」です。マウスピース矯正の治療計画は、1日20〜22時間以上の装着を前提としてミリ単位・度数単位でシミュレーションされています。しかし、撮影や会食が長引いて取り外したまま寝てしまったり、装着時間が15時間程度に落ち込んだりすると、歯が計画通りに動かず、次のマウスピースが入らなくなる「アンフィット」と呼ばれる現象が発生します。自律的な管理ができない人にとって、取り外せるという最大のメリットはそのまま最大の罠へと反転します。
さらに、審美目的の安易なクリニック選びによる「適応症の誤認」も深刻な問題です。重度の出っ歯(上顎前突)や、あごの骨格自体に歪みがあるケースでは、抜歯を伴うワイヤー矯正でなければ骨の奥から歯軸をコントロールすることは困難です。にもかかわらず、マウスピース矯正専門を謳う一部のクリニックで「非抜歯でマウスピースだけで治せる」と無理な治療計画を立てた結果、前歯が外側に押し出されて口元が余計に出てしまう「カッパ口」状態に陥ったり、奥歯が噛み合わなくなる咬合不全を起こしたりする被害が報告されています。
ネット上に溢れる「芸能人のような完璧な口元になれると思ったのに失敗した」という声の正体は、マウスピースという器具自体の欠陥ではなく、診断の甘さと適応症の見極めミスに起因しているケースがほとんどです。