新入生勧誘の春、彼女が瑞沢高校かるた部を訪れた理由は、純粋な競技への興味ではなかった。「イケメンの先輩と一緒に過ごしたい」という極めて等身大で打算的な思い。しかし、足を踏み入れた畳の上は、彼女が想像していた生ぬるいサークル活動とは程遠い世界だった。時速100キロを超える速度で札が飛び交い、選手たちが膝を叩きつけながら音を立てて札を払う凄絶な現場だ。
自分が踏み込んだ場所の過酷さに圧倒されながらも、彼女は逃げ出さなかった。むしろ、自分がどれほど甘い考えでいたかを知り、恥じ入ると同時に「私も本気になりたい」という強い覚覚悟が芽生える。つけ爪を外し、眉を寄せて畳に平伏し、必死に歌を覚える姿。その泥臭い這い上がりこそ、彼女が読者の心を掴んで離さない最大の魅力である。