2004年に開業した同店は、地下約1,500メートルから汲み上げる本格的なナトリウム-塩化物強塩温泉を主軸に、多種多様な内湯や露天風呂、サウナを揃えた地域密着型スーパー銭湯でした。駅前という立地条件の良さから客数は常に安定しており、一見すると黒字経営が続いているように見えていたため、突然の閉館告知は利用者に強烈な衝撃を与えました。
ネット上では「地主との契約満了」「温泉の枯渇」「京成グループの経営不振」など様々な憶測が飛び交いましたが、業界関係者の証言や当時の運営形態を検証すると、単一のトラブルではなく3つの複合的要因が浮き彫りになります。
第一の要因は、温浴プラント設備の大規模更新期です。スーパー銭湯は開業から15年から20年を迎えると、地下熱交換器、高圧受電設備、ろ過循環ポンプ、ボイラー系統の耐用年数が一斉に限界を迎えます。特に塩分濃度の高い強塩温泉を扱っていた同店では配管の腐食進行が早く、これらを全面改修するには数億円単位の巨額投資が不可欠な状況でした。
第二の要因は、2026年以降に激化した電気・ガスなどのエネルギー調達コストの暴騰です。温浴施設は売上原価に占める光熱水費の割合が極めて高く、電気・天然ガス価格の上昇はダイレクトに営業利益を圧迫します。入浴料の値上げだけでは到底吸収できない水準まで原価が跳ね上がっていました。
第三に、運営母体である京成リテールサービスおよび京成電鉄グループの経営資源再配分です。同社は千葉ニュータウン店など同ブランドの温浴施設を段階的に整理しており、松戸矢切店はグループ最後の「笑がおの湯」でした。鉄道事業を核とする沿線ビジネスの見直しにおいて、莫大な再投資を要する温浴直営事業からの撤退方針が下されたのが決定打となりました。