歴史的事実がこれほど明瞭であるにもかかわらず、現代のSNSやYahoo!知恵袋、海外の掲示板Redditなどでは「戦前・戦中の日本の国旗は旭日旗だった」「日の丸は戦後にアメリカから与えられたものだ」といった初歩的な誤認が定期的に投稿されます。こうした認識の歪みには、いくつかの構造的な背景が存在します。
第一に、戦時ビジュアルの過剰な流通です。太平洋戦争中、日本の軍部や大政翼賛会が発行したプロパガンダポスター、国民精神高揚のための宣伝印刷物には、勇ましさを演出するために旭日旗や旭日光線が多用されました。兵士の出征を見送る民衆が小旗として振ったのは日の丸でしたが、兵器の勇姿とともに大々的に報道されたのは軍艦旗でした。この視覚的記憶が、後の世代の「戦前日本=旭日旗の国」という短絡的な連想の下地となっています。
第二に、海外メディアおよび大衆文化における記号化(ステレオタイプ消費)です。冷戦期から2000年代にかけて欧米で制作された戦争映画(『トラ・トラ・トラ!』や『パール・ハーバー』など)、航空戦を題材としたシミュレーションゲーム、あるいはアメコミ作品において、敵対勢力としての「旧日本軍」をひと目で識別させる記号として旭日旗が便利に使われてきました。複雑な旗章制度を理解していない一般の外国人視聴者は、それを「当時の日本の国旗」として自然に刷り込まれていったのです。
メディア社会学や認知心理学の用語を用いれば、これは「代表性ヒューリスティック(目立つ特徴を過大評価し全体の代表だと錯覚する心理バイアス)」の典型例と言えます。シンプルで抽象的な日章旗に比べ、中央から光線が放射状に伸びる旭日旗はグラフィックとしての視覚的刺激が桁違いに強く、人々の記憶に「帝国の旗」として定着しやすかったというデザイン上の宿命も関係しています。