感情論や政治的プロパガンダを排し、科学的・法的な観点から検証した場合、なぜ東京湾岸や都内には原発が存在しないのでしょうか。そこには、原子力規制行政における明確な3大障壁が存在します。
第一の壁は、原子力規制委員会が引き継いでいる旧原子力委員会制定の「原子炉立地審査指針」です。同指針では、万が一の重大事故が発生した場合に公衆への放射線被曝を防止するため、周辺に「非居住区域」および「低人口地帯」を確保し、かつ大都市から十分な離隔距離を置くことが義務付けられています。数百万〜1,000万人規模の人口が過密する東京都内にこの隔離ゾーンを設けることは物理的に不可能です。
第二の壁は、地質学的条件(強固な支持地盤の欠如)です。原子炉建屋は極めて重量が大きく、巨大地震の強い揺れに耐えうる「堅固な新第三紀以前の硬質火成岩・堆積岩の基礎岩盤」に直接設置されなければなりません。しかし、東京湾岸をはじめとする東京都の大部分は、沖積層や軟弱な埋立地、あるいは厚い関東ローム層で覆われており、原発の基礎を直打ちできる岩盤は地下極めて深い場所にしか存在しません。
第三の壁は、冷却水の確保と熱排水の環境容量です。100万キロワット級の軽水炉は、毎秒約70トンという莫大な海水を発電後の蒸気冷却のために取り込み、温排水として海に排出します。閉鎖性水域である東京湾に大量の温排水を放出すれば、水温上昇による生態系破壊や赤潮の頻発、さらには過密な航路との干渉を招くため、外海に面したリアス式海岸や開放性沿岸部でなければ立地が成立しません。
すなわち、「都市型原発」の実現を阻んでいるのは、単なる住民感情以前に、事故発生時の避難計画が原理的に成立しない破局的リスクと、過密な都市インフラという物理的限界なのです。