歌舞伎の異端児・弁天小僧菊之助の正体|名セリフと名演の系譜

歌舞伎の異端児・弁天小僧菊之助の正体|名セリフと名演の系譜

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通称『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』として親しまれる本作の正式名称は、『青砥稿花紅彩画(あおとぞうし はなの にしきえ)』(文久2年・1862年初演)です。タイトルの「白浪(しらなみ)」とは、中国の古典に由来する「盗賊」を意味する言葉であり、江戸の町を騒がす5人の泥棒たちが織りなす群像劇を描いています。

演劇史の記録や当時の劇評資料によると、弁天小僧という希代のキャラクターが生まれた背景には、幕末の劇壇を揺るがした「若き役者の圧倒的な美貌」がありました。当時、市村座の座元でありながら美少年として絶大な人気を博していた十三代目市村羽左衛門(後の名優・五代目尾上菊五郎、当時19歳)の魅力を最大限に引き出すため、狂言作者の河竹黙阿弥が彼専用に創り出した「当て書き」の役柄だったのです。

ある日、黙阿弥が芝居町の湯屋(銭湯)の前を通りかかった際、女湯から出てきた美しい娘が実は女装した役者であったという日常の一コマから着想を得たという口伝が残されています。さらに、当時の江戸市中で暗躍していた実在の女装スリや巾着切りたちの噂話が巧みに習合され、フィクションとしての弁天小僧菊之助が完成しました。単なる架空の悪党ではなく、幕末の江戸に漂う不穏な空気と刹那的なエネルギーが凝縮された存在だったといえます。

佐藤 大輔
著者

佐藤 大輔

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