警察と検察が閉ざした扉をこじ開けたのは、1人の調査報道ジャーナリストの執念でした。当時日本テレビの報道局に所属していた清水潔記者は、菅家さんの冤罪を確信し、現地での地道な聞き込みと徹底的な物証の再検証を敢行。その調査報道の結晶として世に問われたのが、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した名著『殺人犯はそこにいる』です。
清水氏率いる取材班は、足利事件の遺留品に残された真犯人のDNA型データと、横山ゆかりちゃん事件の防犯カメラに映った男の行動パターンを徹底的に分析しました。現場周辺を歩き潰す取材の末、取材班はある特定の男に辿り着きます。その人物は群馬県内に在住する男性で、防犯カメラに映る「ルパン似の男」と身長、体型、歩行の癖に至るまで酷似しており、パチンコを趣味として事件現場界隈を頻繁に徘徊していた人物でした。
取材班は男が捨てたタバコの吸い殻を極秘裏に回収し、大学の法医学教室に持ち込んでDNA型の異同識別を依頼しました。その鑑定結果は、足利事件の被害者のシャツに付着していた真犯人の体液の型と「完全に一致」するものだったと清水氏は著書の中で告発しています。
ジャーナリストの手によって真犯人と目される人物が特定され、その証拠が警察当局にも直接持ち込まれながら、なぜその男は逮捕されなかったのでしょうか。足利事件の真犯人の現在については、男は逮捕・起訴されることなく、一般市民として社会の中で日常生活を送り続けていると伝えられています。国家権力による再捜査の着手は公にされておらず、有力な重要参考人として名指しされながらも、法的追及の手が完全に止まってしまった状態が今も続いているのです。