競馬場で長年取材を重ねていると、最終レース直前のパドック周辺では毎週のように悲壮感の漂う会話が耳に飛び込んできます。「前半で3万円やられたから、12レースの三連単で取り返すしかない」「今日は一番人気が飛んでいるから、荒れるはずだ」。これらはSNS(X)の競馬コミュニティや知恵袋でも無数に見られる典型的な負けパターンです。
行動経済学において、これは「プロスペクト理論(損失回避バイアス)」および「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」として説明されます。人間は利益を得る喜びよりも、同額の損失を被る苦痛を約2倍強く感じる生き物です。そのため、負けが重なると冷静な判断力を失い、損失を一瞬で帳消しにしようとハイリスクな穴狙いや大金ベットに走って自滅します。
また、「赤が連続して出たルーレットでは次は黒が出るはずだ」と思い込む「ギャンブラーの誤謬」も、競馬ファンを破滅に導く大きな罠です。各レースの出走馬や展開は完全に独立した事象であるにもかかわらず、「今日は人気馬ばかり来ているから、次は大穴が来る」と根拠のない逆張りを行い、資金を散じてしまうのです。勝っている人はこうした心理的バイアスを熟知しており、自分の感情がブレた瞬間には即座にPCを閉じ、その日の競馬を切り上げる鉄の自制心を持っています。