実在しない息子がここまで信じ込まれた背景には、日本のテレビドラマ史に残る金字塔『北の国から』(フジテレビ系)の絶大な影響力があります。
1981年の連続ドラマ放送開始から2002年のスペシャル版完結まで、実に21年間にわたって放送された同作において、田中邦衛さん演じる主人公・黒板五郎と、吉岡秀隆さん演じる息子・黒板純の親子関係は、日本中の視聴者の胸を打ちました。泥臭く不器用ながらも息子を信じ、愛し続ける五郎の姿は、多くの日本人にとって「理想の父親像」そのものとして刻み込まれたのです。
当時の撮影現場では、倉本聰氏の徹底したリアリズム指導のもと、田中邦衛さんと吉岡秀隆さんは役柄を超えた疑似親子のような信頼関係を築いていました。ドラマの枠を超えて2人が並び立つ姿があまりにも自然であったため、視聴者の記憶の中で「黒板五郎=田中邦衛の実生活」「純=実際の息子」という認知の同一化が無意識のうちに形成されたと考えられます。
また、映画『若大将』シリーズでの青大将役や『仁義なき戦い』シリーズでの強烈なキャラクターとは対照的に、後年の田中邦衛さんのパブリックイメージを決定づけたのがこの「息子を育てる父親」の姿であったことも、噂が定着し続けた心理的要因といえます。