本作の風情を決定づけているのが、神奈川県横須賀市秋谷や三浦半島周辺を中心としたロケ地の情景です。海を見下ろす高台へと続く急勾配の階段、京急沿線の街並み、潮風に揺れる木々など、昭和から平成の空気を色濃く残すロケーションが、家族の閉鎖的な空気を美しくも重苦しく演出しています。
公開から年数が経過した現在でも、SNSや映画コミュニティでは活発な感想や評判が投稿され続けています。
- 「盆や正月に実家へ帰ったときの、あの独特の居心地の悪さと胃がキリキリする空気感が完璧に再現されている」
- 「樹木希林さんがとうもろこしの天ぷらを揚げながら話すシーンが怖すぎる。日常の延長にある狂気」
- 「20代の頃に観たときは母親の残酷さに引いたが、親を看取った40代になって観直すと、良多の『間に合わなさ』に涙が止まらなくなった」
是枝監督自身、自著や当時の特番インタビューにおいて「前年に他界した自身の母への激しい後悔が出発点だった」と告白しています。「もっと話を聞いておけばよかった」「車に乗せてあげたかった」という個人的な悔恨を、一切の美化を排除してフィルムに焼き付けたからこそ、本作は観客の個人的な記憶を直撃するのです。