ホークスという男の生き様を読み解く上で、本名「鷹見啓悟」にまつわる原体験の暗部は避けて通れません。彼の人生は、生まれる前から過酷な呪縛に囚われていました。
彼の父親は、小銭欲しさに人を殺めて逃亡を続けていた凶悪犯罪者・鷹見。母親は社会から隔絶され、精神的に破綻した状態で啓悟をネグレクトしていました。雨漏りのする狭いあばら家で、暴力に怯えながら過ごした幼少期。外の世界を知らない彼にとって、唯一の心の拠り所はテレビ画面に映るヒーロー、エンデヴァーの人形でした。「自分をこの地獄から連れ去ってくれる誰か」を渇望していた少年は、ある日、多重交通事故の現場で自らの翼を無我夢中で羽ばたかせ、多くの市民を救助します。
この天性の才覚に目をつけたのが、旧態依然としたヒーロー公安委員会でした。公安は父親の逮捕と引き換えに、多額の口止め料と引き取り条件を提示。母はあっさりと息子を売り渡し、鷹見啓悟という戸籍は事実上抹消されました。「ホークス」というコードネームを与えられた彼は、感情を抑制され、効率的に人を救い、時には国家の意向で標的を人知れず排除するための「都合のいい道具」として徹底的に調教されていったのです。
彼が作中で見せていた飄々(ひょうひょう)とした態度は、天性のものではなく、過酷な教育の中で身につけた防衛機制であり、仮面でした。本名を奪われ、偽りの笑顔で飛び続けた彼が、荼毘によってすべてを白日の下に晒された瞬間は、社会的な破滅であると同時に、彼が「国家の道具」から「一人の人間・鷹見啓悟」へと回帰するための残酷なイニシエーション(通過儀礼)でもありました。