原田美枝子のキャリアを語る上で欠かせないのが、世界の巨匠・黒澤明監督が1985年に手掛けた大作『乱』における「楓の方」役です。シェイクスピアの『リア王』を翻案した本作で、彼女は一族を滅亡へと追い込む冷酷無比な悪女を熱演しました。
夫の仇である次男を誘惑し、喉元に小刀を突きつけながら激しい愛憎をぶつけるシーンは、映画史に残る名場面として世界中で絶賛されました。一分の隙もない着物の着こなし、能面のように感情を押し殺した表情から突如溢れ出す狂気は、世界の映画人や批評家に強烈なインパクトを与えました。
黒澤監督の徹底したリアリズムと厳しい現場において、原田美枝子は監督の要求を完璧に具現化してみせました。若い頃の体当たりな演技で培った身体感覚と精神の強靭さが、世界のクロサワの映像美学と融合した歴史的瞬間でした。