診察現場で医師が最も警戒する所見のひとつが、「両側ではなく、片側だけが痛い」という訴えです。「鼻の横を押すと痛い右側」「鼻の横を押すと痛い左側」のように局所的な痛みが固定している場合、通常の風邪に起因する両側性のウイルス性副鼻腔炎とは異なる病態が強く疑われます。
日本口腔外科学会や日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の臨床統計でも指摘されている通り、副鼻腔炎全体の約1割から2割を占める歯性上顎洞炎は、その大半が片側性に発症します。「数年前に神経を抜いた右上の奥歯がなんとなく浮く感じがする」「噛んだときに違和感がある」といった前兆とともに、右の鼻の横だけを押すと鈍痛が走るケースが典型例です。
さらに警戒すべきは、片側の小鼻脇の奥に触れる硬い骨の隆起や、急激な鼻の横痛い腫れを伴う場合です。歯根の先にできた袋状の病変である歯根嚢胞が骨を吸収しながら増大すると、上あごの骨壁が菲薄化し、指で押すとペコペコとピンポン球を押すような感触(羊皮紙様感)を呈することがあります。また、頻度は低いものの、片側性の病変には副鼻腔真菌症(カビの塊が溜まる病気)や、鼻副鼻腔の内反性乳頭腫などの良性・悪性腫瘍が潜んでいるリスクも否定できません。片側だけに痛みが限定されているときは、決して「ただの風邪のなごり」と自己完結させてはいけません。