なぜ韓国語では、英語の「You're welcome」のように堂々と感謝を受け止める表現ではなく、否定や謙譲のフレーズが好まれるのでしょうか。ここには東アジア特有の対人心理学と情(チョン)の文化が深く関わっています。
文化人類学および社会言語学の研究によれば、韓国のコミュニケーション規範には「相手に心理的な負債感(引け目)を背負わせない」という高度な配慮が組み込まれています。相手から感謝をストレートに受け取ってしまうと、「貸しを作った」構図が成立してしまいます。そこで、「いえいえ(아니에요)」「たいしたことではありません(별말씀을요)」と一旦その行為の重みをゼロに戻すことで、お互いの関係性を対等で居心地の良いバランスに保とうとする心理的バウンダリーが働きます。
日本語でも親しい間柄で「ありがとう」と言われた際、「どういたしまして」と胸を張って返す人は少なく、「ううん、全然いいよ!」「とんでもない!」と受け流すのが一般的です。言語構造は違えど、お互いを気遣う「謙譲の美徳」という心理的アプローチにおいて、日韓の日常対話は驚くほど深い共通項を持っています。