詩の力強さに目を奪われがちですが、音楽的な構造にも聴き手をトランス状態へ誘う周到な仕掛けが組み込まれています。プレイヤーの間で頻繁に研究されるThe Times They Are a-Changin' コード進行は、一見するとフォーク特有の極めてベーシックな構成に見えます。
基本キーはGメジャー。ディランはギターの3フレットにカポタストを装着し、実音B♭の響きで演奏することが多く見られます。主要な進行は、Gから始まり、Em、C、D、そして再びGへと循環する極めてトラディショナルなトニック・サブドミナント・ドミナントの交差です。
特筆すべきは、一般的なポピュラーソングの4/4拍子ではなく、3/4拍子(ワルツ・タイム)を採用している点です。ディランはこの旋律を着想するにあたり、19世紀のアイルランドやスコットランドに伝わる伝統民謡、とりわけ哀歌やバラッドの節回しを巧みに下敷きにしました。
3拍子の揺らぎは、民衆の行進を促す軍歌調のリズムとは根本的に異なります。舟が激流に揺られるような浮遊感と、一度転がり始めたら誰にも止められない車輪の回転を想起させるのです。さらにディラン特有の、小節の枠に収まらない変則的な拍の伸縮(歌の語りに合わせてコードチェンジを微妙に前後にずらす手法)が、整然とした既存の音楽理論を打ち破る「不穏な生々しさ」を生み出しています。洗練されたコード理論ではなく、剥き出しの土着コードだからこそ、言葉の刃がダイレクトに聴き手の鼓膜へ突き刺さるのです。