実際に松濤で暮らすことの住み心地や日常生活の実態はどうでしょうか。現地調査と地元住民の声を追うと、羨望の裏側にある「この街ならではのリアリティ」が見えてきます。
鉄壁の治安と圧倒的な静けさ
松濤一丁目の治安は、客観的統計から見ても都内トップクラスの安全性を維持しています。前述した政治家私邸の警備警察官による巡回に加え、各邸宅が契約する警備会社のセキュリティ車両が頻繁に巡回しています。防犯カメラの密度も高く、不審者が徘徊していれば即座に職務質問を受ける環境が整っています。夜間になると人通りはほぼ途絶え、渋谷駅から徒歩10分圏内とは思えないほどの静寂が広がります。
生活利便性のトレードオフ:日常の買い物と坂道
一方で、住環境が過剰に純化されているがゆえの不便さも存在します。第1種低層住居専用地域である松濤の住宅エリア内には、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、ドラッグストアなどの商業施設を1店舗たりとも出店できません。牛乳1本を買いに行くだけでも、山手通り沿いや神泉駅方面、あるいは東急百貨店本店跡地周辺まで歩く必要があります。
地元住民への聞き取りでも、「日用品や生鮮食品はすべてデパートの定期外商デリバリーやネットスーパーを利用している」「車移動が前提であり、徒歩で買い物に行く生活様式ではない」という証言が目立ちます。日常の利便性を徒歩圏の商業施設に依存したい単身者や共働き世帯にとっては、決して「合理的で住みやすい街」とは言えない側面を持っています。