全国の学校現場へ突如として登場した『心のノート』が姿を消した背景には、日本の教育行政における「道徳教育の抜本的制度改革」が存在します。単なる予算削減や人気の低下で自然消滅したわけではありません。
発端は2002年(平成14年)度、完全学校週5日制と「ゆとり教育」が本格導入されたタイミングでした。1990年代後半に起きた痛ましい少年事件や青少年の荒廃を懸念する声が高まるなか、文部科学省は児童生徒が自ら生き方を見つめ直すための補助教材として、国費を投じて全国の国公私立の小中学校全生徒へ無償配布を開始しました。小学校は「低学年用」「中学年用」「高学年用」、そして「中学校用」の全4種類で構成されていました。
しかし、2010年代に入るといじめ問題の深刻化や指導実効性の再検証が進み、道徳教育を正式な枠組みに位置づける議論が急浮上します。2014年度に内容を刷新した『私たちの道徳』へとリニューアルされた後、2015年の一部改正学習指導要領において、それまで「領域」だった道徳が「特別の教科 道徳」へと格上げされることが決定しました。
教科化されるということは、民間発行の文部科学省検定済教科書を使用し、学校ごとに採択を行う仕組みに変わることを意味します。これにより、国が一律に作成して全国一斉配布していた副読本はその歴史的役目を終え、小学校は2018年度、中学校は2019年度の全面実施をもって完全に姿を消すことになりました。