週末の夕暮れどき、脱衣所を見渡すと、頭にタオルを巻いた20代の若者や外国人観光客の姿が目立つ。スマートフォンの画面越しに作られたレトロ風のカフェやテーマパークとは異なり、ここには「本物の時間」が蓄積されている。高い天井から吊り下げられた大きな扇風機、木製キーがカチャンと音を立てる下駄箱、そして浴室の壁一面に描かれた富士山のペンキ絵。どれ一つとして人工的には作り出せない、100年の歳月の重みがそこにはある。
SNSで話題を聞きつけて訪れたという都内在住の大学生(21)は、「昭和や大正の雰囲気が好きで色々回っているけれど、ここは空間の空気がまったく違う。お湯に浸かりながら壁画を眺めていると、まるで時空を飛び越えたような気分になる」と興奮気味に語る。デジタル疲れを抱えた若者たちにとって、このノスタルジックな空間は究極のデジタルデトックスの場として機能しているのだ。