多くの人が「ハム太郎の鳴き声や口癖」として真っ先に思い浮かべる「へけっ」ですが、作品内におけるその役割は単なる鳴き声にとどまりません。劇中での使われ方を精査すると、「驚き」「納得」「呼びかけへの返事」「ひらめき」など、文脈に応じて多彩な感情を伝える多機能な感情語(オノマトペ)として機能しています。人間の言葉で言えば「えっ?」「なるほど!」「了解なのだ!」といったニュアンスを、わずか数文字の短い響きに凝縮した表現です。
このセリフの成り立ちを追う上で外せないのが、原作漫画とアニメ版における決定的な差異です。原作者・河井リツ子氏による小学館の学年別学習雑誌連載漫画『とっとこハム太郎』の初期作品を紐解くと、ハム太郎は基本的に標準的な言葉遣い、あるいはひらがな主体の素朴なモノローグで描かれており、「へけっ」というフレーズは一度も登場しません。語尾の「〜なのだ」も原作では控えめな味付けに過ぎませんでした。
「へけっ」が誕生したのは、2000年7月にテレビ東京系列でスタートしたテレビアニメ版の制作現場です。主人公・ハム太郎の声を担当した声優・間宮くるみ氏のオーディションおよび初期のアフレコ現場において、ハムスター特有の小さく跳ねるような愛くるしい動作に合わせ、感嘆詞として発せられた息遣いやニュアンスが採用されたことが発端とされています。文字として読ませる漫画から、音と動きで直感的に伝えるアニメーションへと媒体が移行する際、声優の身体感覚と制作陣の演出意図が融合して生まれた奇跡のフレーズでした。