手塚作品における女性の身体描写、とりわけ乳房の表現には、他の追随を許さない独特の質感があります。手塚治虫のこだわり理由を探ると、大きく分けて2つの技術的・思想的ルーツが浮かび上がります。
第一に、初期のアニメーション技術から吸収した「ムービング・サークル(動く円)」の概念です。手塚は若き日にディズニー映画の『バンビ』を80回以上観たという逸話を持つほど、円と曲線が持つ生命感に魅了されていました。手塚にとって女性の胸は、幾何学的な円の集合体でありながら、重力と弾力によって刻一刻と形を変える「究極の有機的曲線美」だったのです。
第二に、手塚治虫の医学博士(医師免許所持)としての解剖学的リアリズムです。1950年代に大阪大学附属医学専門部で人体解剖を学んだ手塚は、皮下脂肪の厚み、乳腺の発達、大胸筋との連動を科学的に熟知していました。直線的な記号表現を拒み、柔らかな陰影と流麗な輪郭線で描かれた手塚治虫の曲線美は、医学的な骨格理解に裏打ちされた「生きた肉体」の再現にほかなりません。