料理情報サイトや動画SNSでは、「里芋は強火で一気に煮立てた方が味が染みる」「下茹でを長時間行うのがプロの技」といった言説が散見されますが、調理科学の観点からは明確な誤解です。
里芋の細胞同士を強固に結びつけているのは「ペクチン」という多糖類です。ペクチンは水中で激しい対流にさらされたり、100℃以上の沸騰状態で激しく揺らされると急速に加水分解を起こし、組織が崩壊します。これが「煮崩れ」の正体です。したがって、里芋を煮る際はグラグラと泡が立つ強火は厳禁であり、煮汁の表面がかすかに波打つ程度(85〜90℃)の火加減を維持しなければなりません。
さらに、下茹でに10分以上かけるという手法も、家庭料理においては旨味の過剰流出を招きます。里芋のぬめり成分には水溶性の食物繊維やガラクタン、ムチン様物質が含まれており、これらは適度に残すことで煮汁にとろみを与え、調味料の保持力を高めます。下茹では「沸騰した湯で2〜3分、表面の泡が立ち上る程度」で十分であり、長時間の茹でこぼしは風味の抜け落ちた水っぽい仕上がりを招く原因となります。