セミの頭部の形態観察を進めると、視覚器官だけでなく摂食器官にも目を見張る構造が見られます。セミはカブトムシやクワガタのように強靭なアゴで葉や樹皮をかじるのではなく、植物の道管から樹液を吸い上げる「半翅目(カメムシ目)」に属しています。
顔の下部中央から胸の腹側へと真っ直ぐ伸びているのが、注射針のようなストロー状の器官である「口吻(こうふん)」です。硬い外骨格の鞘(口唇)の中に、極めて細く鋭利な針(大顎針・小顎針)が格納されており、木の硬い樹皮の隙間に差し込んで奥深くの師管液を吸い上げます。
この口吻は普段、胸の下にピタリと折りたたまれて収納されているため、正面から見ると「すっきりとした顎のライン」を形成しています。さらに額部分には、樹液を勢いよく吸い上げるための強力な筋肉(吸管筋)が収まる「頭盾(とうじゅん)」と呼ばれる膨らみがあり、これがセミの顔に立体的で引き締まった精悍さを与えています。