少年隊のデビュー曲『仮面舞踏会』の歌詞を手掛けたのは、矢沢永吉の『時間よ止まれ』など数々の名作を世に送り出してきた名作詞家・ちあき哲也です。彼がこの楽曲に宿したのは、従来の男性アイドルポップスにありがちだった無邪気な青春像ではなく、虚飾と本能が交錯する大人のナイトライフの緊迫感でした。
「シャイな言い訳 仮面でかくして」「素顔に戻って 今夜はあいつを 忘れなよ」という冒頭のフレーズから明らかなように、物語の舞台は日常のモラルや立場を取り払った社交場です。失恋の痛手を抱えた女性と、その仮面の下にある脆い素顔を見抜いた主人公。相手の悲しみを癒やすという口実の裏で、抑えきれない欲望と衝動が渦巻く心理戦が、スリリングな語彙で描かれています。
とりわけ発売当時から現在に至るまで最大の注目を集めてきたのが、サビのクライマックスで放たれる「いっそ X・T・C」というリフレインです。「X・T・C」とは、言うまでもなく感情の高ぶりや忘我の境地を意味する英語「ecstasy(エクスタシー)」の音をアルファベット3文字で当てた記号的表現にほかなりません。
当時、テレビの歌番組や有線放送において、過激で露骨な性的ニュアンスを持つ表現は自主規制の対象になりやすい時代背景がありました。ちあき哲也は「エクスタシー」という生々しい言葉をそのままカナで置くのではなく、「X・T・C」とスタイリッシュに暗号化することで、審査をすり抜けるスマートさと、活字メディアで目を引くアバンギャルドな先鋭性を同時に獲得したのです。後年、錦織一清が当時の回想録やトーク特番で「あの言葉があったからこそ、ただの歌謡曲ではなくエッジの効いた楽曲になった」と語っている通り、少年たちの瑞々しさと成熟した大人の危うさを同居させる決定打となりました。