スーパーで手に入る手頃な赤身肉や輸入牛が硬くなってしまう最大の理由は、水分と脂質のバランス、そして筋繊維の収縮にあります。黒毛和牛のような霜降り肉は融点の低いサシ(脂)が筋繊維の間に入り込んでいるため加熱しても柔らかさを保ちやすい一方、赤身主体の肉は加熱温度が65℃を超えた段階でタンパク質が急激に縮み、内部の水分(肉汁)を一気に外へ絞り出してしまいます。
「安いお肉だから仕方ない」と諦める必要はありません。フレンチや鉄板焼きの現場取材において、熟練の料理人たちが口を揃えるのは「ステーキの美味しさは加熱のグラデーションで作る」という事実です。表面には香ばしいメイラード反応(アミノ酸と糖が反応して生まれる香ばしい焼き目)を形成しつつ、中心部には細胞破壊を起こさない穏やかな熱を届けること。この物理的なアプローチさえ守れば、特売のオージービーフやアメリカ産アンガス牛であっても、ナイフがスッと入る極上の柔らかさを引き出すことが可能です。