なぜ『夜明けと蛍』のコード進行は、これほどまでに日本人の琴線に触れ、胸を締め付けるのでしょうか。その背景には、ヨルシカのコンポーザーとしても知られるn-buna氏特有の計算された作曲技法があります。
最大の特徴は、王道ポップスで多用される「カノン進行(I - V - vi - iii)」や「王道進行(IV - V - iii - vi)」をそのままなぞるのではなく、マイナーコードから始まる下降的な循環構造(vi - iii - IV - V - I)を採用している点です。Key Gで見た場合、暗い影を落とす「Em」から静かに始まり、平行調のドミナント的役割を持つ「Bm」へと滑り落ちることで、イントロの1小節目から聴き手を一気に叙情的な世界観へ引き込みます。
さらに、Bメロの終結部で使われる「B7(III7)」のセカンダリードミナントが決定的なスパイスとなっています。本来のKey GにおけるダイアトニックコードであるBm(iii)をメジャー化し、さらに7度を付加したB7を鳴らすことで、サビの頭であるEm(vi)への強い推進力(ドミナントモーション)が生み出されます。このコード理論的な「緊張と緩和」の落差こそが、リスナーの感情を大きく揺さぶる「エモさ」の正体です。