蚊の寿命と生態を語る上で欠かせないのが、吸血行動の真の目的です。世間では「蚊は血を吸って生きている(空腹を満たしている)」と思われがちですが、これは根本的な誤解です。
蚊が刺す理由は、空腹を満たすためではなく「産卵に必要なタンパク質と鉄分を外部から摂取するため」です。蚊の日常的なエネルギー源は、人間や動物の血液ではなく、花の蜜や草木の樹液、果汁に含まれる「果糖・ブドウ糖」などの糖分です。そのため、オスの蚊はもちろん、メスの蚊であっても普段は植物の蜜を吸って生活しています。
では、蚊が血を吸わないとどうなるのか。吸血しなかったからといって、蚊が餓死することはありません。水と糖分さえ摂取できていれば、メスもオスと同様に寿命を迎えるまで普通に生き続けることができます。ただし、吸血を行わないメスは、卵巣内で卵を発達させることができず、一粒も産卵することができません。つまり、吸血は「個体の生命維持」のためではなく、純粋に「種族保存(生殖)」のための特異行動なのです。
ただし、都市環境に適応したチカイエカの生態には例外があります。チカイエカは「無吸血産卵(自発産卵)」という特殊な生理能力を持っており、羽化後の第1回目の産卵に限り、一度も血を吸わなくても幼虫期に蓄えた栄養だけで産卵することができます。外食産業の厨房や地下オフィス街など、吸血対象が少ない密閉空間でも爆発的に増殖できるのは、この進化的アドバンテージによるものです。