お盆の期間中、仏前に供える特別な食事である霊供膳(仏膳器)。基本は「一汁三菜」を基調とした精進料理ですが、単に「肉や魚を使わなければ良い」という単純な理解では思わぬ過ちを犯します。仏教の教義に照らし合わせた際、明確に排斥される食材には明確な宗教的・身体的根拠が存在します。
まず絶対に避けなければならないのが、殺生を連想させる「生臭物(なまぐさもの)」、すなわち肉類・魚介類全般です。これらは仏教の根本戒律である「不殺生戒(ふせっしょうかい)」に反するため、一切の使用が禁じられます。見落としがちなのが、ちくわやかまぼこなどの練り製品、エビやイカのエキス、ゼラチンなどの動物性由来成分です。
さらに厳格に禁じられているのが「五辛(ごしん)」と呼ばれる刺激の強い香味野菜です。寺院関係者への取材によると、五辛とは主にネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、アサツキ(タマネギも含む)を指します。これらは古くから「食べると情欲を増進させ、怒りの心を刺激し、精神の平静を乱す」とされ、修行の妨げになるとして精進料理の調理場から完全に排除されてきました。家庭料理で重宝されるタマネギのみそ汁やネギの薬味は、仏前においては重大なマナー違反に該当します。
そして最大級の盲点といえるのが、浄土真宗お盆お供えの真相です。日本で最も信徒数の多い浄土真宗(本願寺派・大谷派など)では、原則として霊供膳を供えません。親鸞聖人の教えでは、亡くなった方は阿弥陀如来の導きによって即座に極楽浄土へ往生し、成仏している(往生即成仏)と考えます。したがって「お盆に霊が迷い帰り、空腹を満たすために食事を求める」という発想そのものが教義上存在しないのです。浄土真宗の家庭で無理に精進料理の膳をこしらえる必要はなく、季節の果物や落雁、お餅などを仏徳への感謝として供えるのが正式な作法です。