岩城滉一を語る上で外せないのが、モータースポーツへの狂気的なまでの情熱だ。二輪・四輪の本格レースに参戦し、全日本GT選手権やフォーミュラ・ニッポンなど最高峰の舞台に自らのレーシングチームを率いて挑み続けた。時速300キロ近いスピードの世界は、常に死と隣り合わせの危険を伴う。
危険だからと夫の翼をもぎ取るようなことは、アンナは決してしなかった。「彼から情熱を奪ったら、彼ではなくなってしまう」。レース前のピットで静かにヘルメットを渡す妻の姿は、サーキット関係者の間でも語り草となっている。束縛せず、互いの命の使い道に干渉しない。二人の間には、理屈を超えた独自の信頼協定が存在していた。