美容情報が溢れるなかで最も危険な誤解が、「レチノールによる皮剥けや赤みは、すべて美肌へ生まれ変わるための好転反応(A反応)だから我慢して塗り続けるべき」という言説です。この解釈は皮膚科学的に極めて危険です。
確かにビタミンA(レチノール)の導入初期には、細胞代謝の急激な促進によって一時的な落屑(皮剥け)や乾燥、軽微な赤みが生じる場合があります。しかし、正常なA反応であれば、皮膚の耐性獲得とともに1〜2週間程度で沈静化し、角質層の弾力と厚みが徐々に回復していきます。
対してビニール肌は、「回復のキャパシティを超えたオーバートリートメント」によって引き起こされます。高濃度レチノールの連用、AHA(グリコール酸や乳酸)やBHA(サリチル酸)による過度な角質融解、さらには拭き取り化粧水やスクラブ洗顔による物理的摩擦が合わさることで、肌のターンオーバーは異常な速度で空回りし始めます。
ターンオーバーは「早ければ早いほど良い」わけではありません。通常、約28日〜40日かけて基底層から有棘層、顆粒層を経て角質層へと成熟していく過程で、細胞は自ら「天然保湿因子(NMF)」や「細胞間脂質(セラミド)」を合成します。しかし、無理やりターンオーバーを早められた皮膚細胞は、保湿成分を作る準備が整わない未熟な状態のまま表面に押し出されます。その結果、水分を一切抱え込めない脆い「偽りの角質」が表面を覆い、ビニール肌が完成してしまうのです。