山本七平の思想的特徴を語る上で欠かせないのが、彼が提唱した「日本教」という視座です。
山本によれば、日本人は仏教徒や神道信者、あるいは無宗教を自認していても、深層心理ではひとつの強固な宗教を共有しています。それこそが「人間関係を絶対視し、全体の和を乱さないことを至高の善とする信仰」=日本教です。教祖も聖典も存在しないため自覚されにくいものの、ひとたび共同体の掟に背けば苛烈な社会的制裁が下されます。
こうした構造を抉り出した山本七平の名言集には、思考停止に陥った私たちを覚醒させる言葉が数多く並んでいます。
「あらゆる議論が尽くされた後、最後に決断を下すのは理屈ではなく『空気』である」
「日本人は無宗教ではない。自分が『日本教徒』であることに気付いていないだけだ」
「責任をとるということは、地位を去ることではない。なぜその過ちが起きたのかを冷徹に究明し、二度と同じ轍を踏まない構造を作ることだ」
これらの警句は、昭和の軍部批判にとどまらず、責任の所在を曖昧にしたまま役職者の引責辞任だけで幕引きを図る現代のコーポレートガバナンス不全にも、寸分違わず突き刺さります。