物語の中盤まで、主人公・紺野真琴や津田功介と放課後の野球に明け暮れるごく普通の高校生として描かれていた間宮千昭。しかし彼の真の姿は、真琴たちが暮らす2006年の東京よりもはるか先の時代からやって来た未来人(タイムリーパー)でした。
千昭が生まれ育った未来社会は、彼自身の口から断片的に語られています。そこは「川が地面を流れておらず、空が青く広がっていることもなく、人が多すぎることもない」という、環境破壊や人口減少が進んだ極めて過酷な世界です。野球というスポーツの概念すら失われていた時代に生きていた千昭が、命や処罰のリスクを伴う時間跳躍を行ってまで2006年の夏に現れた最大の目的、それこそが東京国立博物館で修復されていた幻の絵画「白梅ニ椿菊図(はくばいにつばききくず)」を鑑賞することでした。
劇中で魔女おばさんこと芳山和子が修復を手掛けていたこの絵画は、数百年前の戦乱と飢饉の時代に描かれたとされ、千昭の時代にはすでに消失して存在していませんでした。「どんな時代であっても、過酷な現実の中で描かれた美しさをこの目で確かめたい」という切実な衝動が、彼を過去へと突き動かした動機だったのです。
ところが、千昭は予期せぬ事態に直面します。過去の時代で出会った真琴や功介との何気ない日常、キャッチボールの楽しさ、そして真琴という存在そのものに惹かれ、当初の目的を忘れて「夏」という季節に長居してしまいました。このモラトリアムの甘美さと時間の不可逆性が、後半の切ない悲劇へとつながっていきます。