神宮は、一般的な地域の神社(氏神さま)とは異なり、国家の安泰や公の繁栄を祈念してきた特別な歴史を有します。そのため、境内において無意識に行いがちな行動の中には、明確に「避けるべき禁忌」が存在します。
第一の禁忌は「参道の中央(正中)を堂々と歩くこと」です。参道の中央は「神様の通り道」とされており、参拝者は必ず左右どちらかの端を歩くのが作法です。外宮は左側通行、内宮は右側通行(手水舎の位置に準ずる)という規定がある点も見落とせません。
第二の禁忌は「正宮・御正殿前での私利私欲に満ちた個人的なお願い事」です。伊勢神宮の内宮(皇大神宮)や外宮(豊受大神宮)の正宮は、個人的な商売繁盛や恋愛成就を懇願する場所ではなく、「日々の平穏と生かされていることへの感謝(大御心への奉謝)」を捧げる場です。個人的な祈願を行う場合は、境内の第一別宮(外宮の多賀宮、内宮の荒祭宮)で行うのが古来の礼儀とされています。
第三の禁忌は「撮影禁止区域での撮影および飲食・ゴミのポイ捨て」です。特に正宮の鳥居内側や御帳(白い布)の奥へカメラを向ける行為は神事への冒涜とみなされます。近年はスマートフォンの普及により注意を受ける参拝者が散見されますが、厳格に律するべき領域です。
神道民俗学および心理学の観点から見ると、神域におけるこうした境界規範は、人間が自己中心的なエゴを手放し、健全な「心理的バウンダリー(聖と俗の境界線)」を再構築するために不可欠な装置として機能しています。日常の損得勘定から離れ、純粋な畏怖の念を抱くことこそが、参拝本来の心理的効用をもたらします。