『蛇にピアス』を語る上で欠かせないのが、表記名としての「ARATA」から本名「井浦新」への移行プロセスです。
井浦新が本名へと改名したのは、2012年に公開された若松孝二監督の映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』が直接の契機でした。日本文学界の巨星であり国粋主義者としても知られる三島由紀夫を演じるにあたり、エンドロールに「ARATA」というアルファベット表記が流れることに対して、自ら強い違和感を抱いたといいます。「三島由紀夫を演じる以上、自分自身の本名で看板を背負い、全責任を持たなければならない」という強い意志が改名を後押ししました。
しかし、その下地を作ったのは間違いなく『蛇にピアス』の過酷な撮影経験でした。モデルという枠組みを完全に捨て去り、役柄の狂気と同化する痛みを味わったことで、彼は「ただそこに佇むモデル」から「魂を削って人物を立ち上げる表現者」へと脱皮を遂げました。若い頃の妖艶で危うい魅力は、年齢を重ねるにつれて深みのある包容力や静謐な演技力へと見事に昇華されています。